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4,[本(社会)]消された一家―北九州・連続監禁殺人事件[感想,考察]

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消された一家―北九州・連続監禁殺人事件 (新潮文庫)
消された一家―北九州・連続監禁殺人事件 (新潮文庫)豊田 正義

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<<目次>>
1,参考箇所(本文より引用)
2,まとめ,感想,考察




<1,参考箇所(本文より引用)>
P1:その男は「天才殺人鬼」であった。マンションの一室に男性とその娘を監禁し、多額の金を巻き上げると同時に、通電や食事・睡眠・排泄制限などの虐待を加えた。やがて家畜のごとく、男性を衰弱死させた。その後、今度は七人家族を同じ部屋に監禁し、やはり通電やさまざまな制限を加え、奴隷のごとく扱った。七人家族とは、その男の妻、妻の父親、母親、妹夫婦、甥、姪だった
P43:そうして純子は次第に、自分が悪いという心理状態に陥っていったという。「最初は自分自身には、暴力を受けるような品行の悪さはないと思っていました。でも、具体的なことを取り上げられて、何度も同じ質問を受けているうちに、自分が間違っているのかもしれないと思うようになりました。いま考えれば、松永の巧みな話術によるものだと思いますが、当時は自分が悪い、と思い詰めていました」これは典型的なバタードウーマン(DVの被害女性)の心理状況である。夫や恋人との二人だけの閉ざされた世界で、「おまえが悪い。だから俺はこんなことをするんだ」と暴力を振るわれていると、大概の女性は自己を非難する思考を植え付けられる。自尊心が壊され、「殴られて当然な自分」という自己イメージを抱くようになるのだ。やがて抵抗する意志も失い、過酷な暴力に耐えて理不尽な要求に従うことが、被害者のアイデンティティーになってしまう
P44,45:さらに松永は、純子の家族や親類、友人に次々と電話をかけさせ、何かしらの因縁をつけて相手を怒らせた。電話で話す純子の隣には常に松永が居り、受話器に耳を近づけて会話を聞きながら紙に言葉を書き連ね、純子はそれを読みながら罵詈雑言を浴びせかけた。「自分の気持ちに反してでも言いました」と後に語っている純子だが、こうした電話で家族や親戚の顰蹙を買い、友人達とは絶交せざるを得なくなった
P52,53:「私はこれまでに起こったことは全て、他人のせいにしてきました。私自身は手を下さないのです。なぜなら、決断をすると責任を取らされます。仮に計画がうまくいっても、成功というのは長続きするものではありません。私の人生のポリシーに、『自分が責任を取らされる』というものはないのです。(中略)私は提案と助言だけをして、旨味を食い尽くしてきました。責任を問われる事態になっても私は決断をしていないので責任を取らされないですし、もし取らされそうになったらトンズラすれば良いのです。常に展開に応じて起承転結を考えていました。『人を使うことで責任をとらなくて良い』ので、一石二鳥なんです」説明を加えると、供述調書とは、検察官や刑事の訊問に対して事件関係者が答えた内容をまとめたものだ。これは最終的に供述した者が内容を確認し、承認の署名をすることになっている。つまり松本の供述調書にこの記載があるということは、取り調べ相手に「人生のポリシー」を語り聞かせたことを、本人が認めたことになる
P55:しかし、ワールドの実態は、詐欺商法を繰り返しながらの自転車操業だった。空手チョップ、四の字固め、通電、背後に暴力団がいるという脅し、仕事のミスを突く罰金などを多用し、松永は従業員達を恐怖で支配していった。そして出身学校の卒業生や教師などに連絡を取らせ、「在庫に抱えて倒産するかもしれないから協力してほしい」と頼み込んで高額な布団セットを売りさばかせる方法で、暴利を貪っていたのである
P56:金儲けと平行して彼が心血を注いできたのが、女性との交際であった。本人の供述によれば、純子と交際を始めた時期も、10人程度の愛人がいた。松永は手当たりしだいにナンパし、うち何割かを獲得できればいいという考えだった
P57,58:松永の気紛れに翻弄され、傷つき、それでも松永に従う女達のハレムが形成されていたのだ。しかも女達は純子と同様に、関係が深くなるにつれて暴力を振るわれた。本妻のA子さんも例外ではなかった
P65:昔からの人間関係や、それまでに培ったモラルを自ら破壊する。こうした行為をするようになったら、もはや「洗脳」は最後の局面を迎えていると言えるだろう。ワールドを手伝う頃には純子の倫理的原則は崩れ、犯罪行為に対しても、もはや嫌悪感も抱かなくなっていたようだ。そうでなければ、ふたたび自殺衝動にかられてしまったかもしれない。思考を停止させ、感覚を麻痺させることは、「生き延びる術」とも言えるが、その代償として、純子はますます松永に依存せざるを得なくなっていった
P66:まず最大の課題であった逃走資金の捻出については、取り込んだ人間を騙したり脅したりして、その家族や親類から可能な限りの額を搾り出させた。松永は奪い取る対象を「金主」と呼んでおり、判明しているだけでも四人の男女が金主として過酷な仕打ちを受け、うち二人は死亡、1人は精神病院に入院するという凄惨な結末を迎えている
P67:妊娠に気づいたのは、指名手配となる詐欺事件を起こす直前だった。松永は堕ろすことを勧めたが、純子の決意は固く、認知してもらえなくても産んで育てようと思っていた。「幼稚園に勤めているとき、松永の暴力がどんなに酷くても、子供達に接しているときだけは忘れられました」と語るほど純子が子供好きであることを考えると、平成5年1月、健康な男の子を産んだときの歓びは相当のものだったであろう。しかし松永にかかると、子供さえも支配の道具にされてしまう。まず彼は「自分らが捕まって犯罪者の子供になるくらいなら逃げたほうがいい」と繰り返し主張した。母親は「子供のために」というフレーズに弱いものだが、純子も例外ではなく、「そう言われると、子供が産まれるから自首をして身を潔白にしたいという気持ちより、時効まで松永といっしょに逃げ続けようという気持ちのほうが強くなりました」と語っている。補足すると、松永は逮捕後も弁護人を介して「子供のために黙秘しろ」というメッセージを純子に届けている
P76,77:事実関係証明書を書かせていく松永の手口についても、恭子は詳細に証言した。「お父さんがマンションMに通っていた頃のことです。私は『お父さんが松永のバッグからお金を抜いた』と松永に報告しました。それは嘘でした。松永から、お父さんのした悪いことを言わされ、十個なら十個言わないと怒られるので、嘘をついてしまいました。松永は『俺の金を盗んだだろ!』とお父さんを責めましたが、お父さんは懸命に否定して、『嘘をつくな!』と私の頬を殴りました。口の中が切れて血が出てきました。私は松永に風呂場に連れていかれ、シャワーで血を流しました。そのとき松永から『嘘をつくなら最後までつき通せ』と言われました。でもその日はお父さんは認めませんでした。次の日、松永はふたたびお父さんを責め、私を呼んで、水が入った洗面器の前に正座させました。そして『あんたが言わんと、この子の顔を水に浸ける』と言って、私の頭を洗面器に押し付けていきました。私は両手を床につけて腕を突っ張っていましたが、洗面器に顔を浸けられそうになったときに『認めます』とお父さんは言いました。お父さんが、初めて嘘を認めたときです」
P77:「私は原稿用紙に『おとうさんからされたいろいろないやなことのすべて』という題で、松永から言われたことをそのまま書きました(この原稿用紙は裁判所に証拠採用されている)。お風呂でお父さんに乳首を触られた、乳首を揉まれた、寝ているときに陰部を触られた、肛門に指を突っ込まれた、そういうことを書きました。お父さんからそんな嫌らしいことをされたことはありません。書かないと松永から叱られるので嘘を書きました。でもお父さんはその内容を認めて、『恭子に対する性的悪事のかずかずの事実関係証明書』を書きました」職場から現金百万円を盗んだという事実関係証明書についても、そうした事実はないのに身体に電気を通され続け、無理やり認めさせられたと話した
P79:「導線が肉に食い込み、締め付けられ、ちぎれるような熱感でエビのように身体がよじれ、息ができず、歯を食いしばった」「通電箇所にびらんとなるほどの火傷が生じた。両手首に巻かれて通電されたときには脳天にドカンと突き上げられる衝撃で、目の前が真っ暗になり、倒れて気を失った」……Nさんの証言が物語っているように、松永版の通電道具は絶大な威力を発揮した。以来、ことあるごとに従業員達は通電の標的にされた。電気ショックの恐怖に脅える従業員達は競い合って松永の歓心を買うようになる。松永はその心理を利用しお互いを密告させたり、自分の目前で罵り合いをさせたりして、従業員達が結束して抵抗してこないように仕向けた。しまいには従業員同士で通電しあう光景が常態化した
P80,81:クリップを挟む部位は、松永の命令で決まった。腕、太股、乳首、顎、耳……。通電を受ける際の姿勢も命じられ、多くの場合は、つま先立ちで深く腰を降ろしたまま上体を正す「そんきょ」の姿勢を取らされた。そして通電する理由を告げてから、二つのコードの瞬間的な接触を何回も繰り返す。純子にやらせることも多かった。通電時間は断続的に一時間以上に及ぶのがざらで、その最中や合間に、説教や尋問が行われたという。(中略)だがしかし松永は、単なる気まぐれで通電を繰り返していたわけではなかった。最大の目的は、金を搾り取れるだけ搾り取ることだ。もっとも、松永は「金を払え!」「金を作ってこい!」と恫喝するような単純な方法はとらなかった。「松永は金を払わないことを通電の理由にはしません。『これはお金を作ってこいと言っているんだな』と思わせるような、遠まわしな物言いをして通電を繰り返しました」と、純子は言っている。相手を誘導して、最終的な決断はかならず本人に下させ、自分は責任を取らない。松永のポリシーは、虐待するときにおいても、徹底して貫かれていた
P83:「私はお父さんを嫌いになったことはありませんが、松永から『ちくりノート』という手帳を渡されて、お父さんの悪いところをなんでも書くように命令されました。松永は『お父さんはお金を借りるのが仕事で、あんたはお父さんの悪いところを見つけるのが仕事』と言っていました。私はお父さんの行動を見張って、悪いところを書いて、松永に報告しました。命令通りに書かないと、私が松永から怒られました。だから私は、たくさん嘘を書きました。松永はそれを読んで、お父さんに電気を通しました。ひどいときは半日以上通電して、お父さんは全身を痙攣させて何度も気絶していました」
P84,85:夜中の三、四時ごろに寝ることを許され、朝七時頃には起こされた。授業中に居眠りをして、教師からもたびたび叱られた。恭子が学校に行くときも帰ったときも、父親は浴室で立っていた。帰宅すると彼女もすぐに浴室に入り、寝る時間まで父親と並んで立っていた。宿題をやることさえ許されなかった
P88:おそらく当時の清志は「学習性無力感」という状態にあったのだろう。これは、心理学者のレノア・ウォーカー博士が唱えた説だ。檻に閉じ込めた人間や犬などに電気ショックを与えつづけると、当初は逃げようとしていても、次第にそれが不可能だと学習し、無抵抗になっていく。そしてしまいには、扉を開けても檻から出なくなる。松永が清志に続けた「廃人化」のプロセスは、まさにこの実験と同じである。また、前出のハーマン医師によると、強制収容所における囚人達の最終的な心理段階とは、生きる意志や自殺する気力さえも失くし、絶対的受け身の態度に徹することだという。こうした囚人達は「もはや食物を探そうとも暖をとろうともせず、殴られるのを避けようともせず、生きながらの死者とみなされた」。純子の目に「廃人」と映った頃には、清志はすでに、この最終段階にさしかかっていたのだろう。そして「彼らは必ず死に至る」とハーマン医師が言う結末は、清志にとっても避けられるものではなかった
P92:また純子は、常に松永から監視されていた。たとえば、買物などで外出する際には、携帯電話でこまめに松永に連絡を入れなくてはならなかった。マンションから出たときに「いま出ました」、スーパーマーケットやコンビニの前では「着きましたので、今から入ります」、店内では「何を買いましょうか」、店を出ると「いま出ました」……。連絡を怠れば帰宅後に通電される。また、松永からも不規則に電話が掛かってきて、出られなかった場合も、帰宅後に通電された。このこまめな連絡義務と抜き打ちのチェックは、「たとえ外にいても松永から常に監視されている」という恐怖心を植えつけた。「外出中にトイレに行くことは考えられませんでした。どうしても我慢できない場合は、『いまから行ってもいいですか』と連絡して許可を得ていました」というように、家にいるときと同様、外でもトイレすら自由に行けなかったのである
P112:純子は少ない記憶の断片をつなぎながら、湯布院から戻った後に受けた制裁の状況を語っていった。それは概ね、次のような内容である。「松永から、母と会った時点から湯布院での出来事、マンションMに帰ってくるまでを分刻みに質問されました。湯布院に行った電車も、松永は時刻表で確認して、その電車があると納得するという感じでした。質問攻めの最中には顔面への通電を繰り返されました。この衝撃はなかなか表現できません。顔面だと、一秒でもすごい衝撃で激痛が走り、意識が遠のいて目の前が真っ白になり、このままどうなるかという恐怖がありました。質問に答えても通電、答えなくても通電、本当のことを言っても『嘘を言うな!』といって通電されました。痛みと恐怖で頭が一杯になり、ほかのことは一切考えられなくなりました。(中略)」
P116,117:恭子は携帯電話で松永に連絡を取り、純子の逃走未遂を告げて指示を仰いだ。「今から行くから、門司で待っておけ」門司駅のホームで松永の到着を待っているとき、純子は再び走り出し、発車直前の電車に乗り込んだ。しかしまたしても恭子がぴったり付いてきて純子を捕まえ、携帯電話でふたたび松永に報告した。そして電車が小倉駅に到着したときにはホームに松永の姿が見えた。その瞬間、純子は完全に逃走を諦め、恭子に腕を掴まれて車両からおとなしく降りた。松永は逃走を二度も阻止した恭子を褒めちぎり、「太股を蹴っておいて良かっただろ」「スリッパ履きにして早く走れなかったから良かっただろ」「今後も逃げないようにしっかり見張っておけよ」などと得意げに捲し立てた。小倉駅からマンションMに戻ると、純子を待ち受けていたのは、それまで以上の過酷な制裁であったのは言うまでもない。ふたたび解離症状らしき精神状態に陥り、記憶の大半が失われている中で、純子はこんな証言をした。「電気が怖かったから逃げたと言うと、『じゃあ、清志におまえがしたことはなんだ。そんなことをおまえがいえる立場じゃないだろ』と言われました。『清志にしたこと』とは、通電などの虐待を続けて結果的に死なせたことを指しているのだろうと思いました。決して私一人のせいじゃないと思っていましたが、私が関わったことは事実ですし、返す言葉がありませんでした。嫌がらせの意味で、通電を受けたあと、『電気はわたしの友達です』と言って笑うよう何度も強制されました。それを見た松永は嬉しそうに笑っていました」
P123,124:そこで松永は、主也に緒方家の人々への不信感を植え付けるという方法をとった。松永は普段から飲酒の席でプライベートな話を根掘り葉掘り聞き出し、恫喝のネタを仕込んでいた。主也が小倉通いを始めた頃には、すでに譽たちの弱味を把握しており、主也に酒を勧めながら、それらを次々に打ち明けていったのである。純子の証言によれば、まず松永は、緒方家の土地の一部を主也に譲渡するという約束が未だに不履行であることを持ち出し、「あなたは騙されて養子に来たんですよ」と主也を煽った。続いて妻の過去を暴露した。理恵子は結婚前に多くの性交経験があり、妊娠・中絶の経験さえあったが、結婚するときには主也に処女と偽っていた。そのうえ、結婚後も同僚男性と不倫したこともあった。これらの秘密を松永は理恵子本人から聞き出し、主也に知らせ、「あなたは、理恵ちゃんにも騙されているんですよ」と、ますます煽ったのである。前出の理恵子の親友によれば、田舎町ではすぐに噂が広まることを警戒して、理恵子は中絶や不倫の経験などをひた隠しにしていたが、「なんでも相談しあう仲だった」というこの親友だけには打ち明けていた。それほどの秘密を聞き出した松永の誘導術には、改めて驚かされる。主也は当然、相当のショックを受けた。そして譽や理恵子を非難するようになり、同時に松永には気を許していった
P126,127:純子が殺人事件の犯人であること、純子を逃がすには多額の資金が必要であることを、主也はどこかの時点で松永から打ち明けられたはずである。そのときの主也の反応は分かっていないが、譽たちと同様、「身内の恥は絶対に隠し通さなければいけない。こんなことが世間に知れたら緒方家はおしまいだ」と考えたのではないか。しかし、そうした主也の責任感も、逆手に取られた。譽と同じく、清志殺害の証拠隠滅として、浴室のタイルの張り替えを引き受けてしまったのである。「松永は常々、タイルを張り替えないといけないと言っていたんですが、主也さんにそれをさせ、負い目をおわせたのだと思います」とは、純子の弁である。実際にこの作業は、主也を呪縛することになった。以後松永は何かにつけて「元警察官たるものが……」という枕詞を使い、殺人の証拠隠滅に加担したことを執拗なまでに蒸し返した。こうして、共犯意識を植え付けていったのである
P134:松永を頂点とした縦割りの序列で、通電を受けたのは、決まって最下位の者だった。そしてその序列は次々に入れ替わるため、緒方家の面々は一瞬たりとも気が抜けず、いわばお互いが”ライバル”だったのである。誰かが些細な理由で最下位に落とされれば、他の者は安堵し、絶対服従の態度を続ける。そして最下位の者は、序列を上げるために松永の歓心を買おうとし、家族を裏切ることも厭わなくなる。こうして家族は敵対関係に陥り、もはや結束して松永に対抗することもなくなる
P135,136:純子は「連日の通電で自分がなくなったような感じになりました。これはいい、これは悪い、というのではなく、松永の機嫌を損ねずに指示を実行するだけになりました」などと、すべて松永中心に考えるようになったと証言している。自分の判断などはなく、松永の指示を絶対視し、彼の利益を最優先させる。これは純子のみならず、緒方一家の集団心理であった。続いて彼らは、虐待者、すなわち松永に依存するという、倒錯的な心理段階に至ったようだ。たとえば純子の証言によれば、譽は財産の大半を献上したあと、「もうこうなったら、松永さんにぶらさがって生きていくしかありません」と松永に語っていたという。逆に、 譽たちが内心では松永を憎悪していたと推察できる言動は、まったくと言っていいほど窺えない。松永についていくという言葉は、譽の本心であったのだろう。実弟たちと闘ったのも、松永の指示に背けば報復されるという恐怖心より、松永への忠誠心によるものだったのかもしれない
P145,146:彩に対して松永は、「彩ちゃんが以前、神社に行ったときに、神社の神様に『おじいちゃんなんて死んじゃえ』とお願いしたから、本当に死んじゃったんだよ。彩ちゃんのせいでおじいちゃんは死んだんだ」と語った。純子の記憶では、その出来事は、久留米で平穏な生活をしていた頃にあった。出先で、冷やし中華を食べさせてあげるという約束を守ってくれなかった祖父に腹を立て、彩が神社でそう願ったという話を聞いたことがあった。松永はそんな子供らしいエピソードまで利用して、十歳の彩に罪悪感を植え付け、解体作業を手伝わせる理由にしたのである。「松永は家族それぞれからいろんなエピソードを上手に聞き出していて、それを頭のなかに入れているのです」と純子はいう
P148,149:いよいよ制限時間が迫ってきた。松永は和室から出てくると、唐突に「金は貸してやってもいい」と低い声で言い、すぐ和室に戻った。その瞬間、純子たちは互いに顔を見合わせ、誰も口を開こうとはしなかった。純子はこのときの心境を法廷でこう語った。「当初は、松永の真意がぜんぜんわかりませんでしたが、『金は貸してやってもいい』という言葉で、もしかしたら、母を殺せと言っているのかなと思いました。アパートを借りる案や、精神病院に連れていく案は否定されたので、その金とは、母を外に出す費用とは思えませんでした。父の解体のときも『金は貸してやる』と言われて、解体道具を買うお金の借用証書を書きましたから、同じことを意味しているのだとしか思えませんでした」長い沈黙を破って、純子が「殺せ、ということかな?」と呟くと、理恵子か主也のどちらかが「たぶんそうでしょう」と消え入るような声で答えた。ふたたび誰もが口を結んでうつむき、重々しい沈黙に包まれた
P149:話し合いを命じられてから二時間ほど経過し、純子は松永を呼びに行き、「母を殺すしかないと思います」と告げた。松永は満足気な表情を浮かべて、「おまえたちがそうしたいのなら、そうすればいい」と答えた。純子はこの瞬間、「やはり最初から、私たちがお母さんを殺すということを望んでいて、そこに誘導するために話し合いをさせたんだな」と確信した
P175,176:このとき松永は、「子供に情けをかけて殺さなかったばかりに、将来その子供から復讐された話もある」と、唐突に源平の物語、源義経が平家から見逃され、後に復讐に成功するという逸話を引き合いに出し、「そうならないために早めに口封じをしなければならない」と結論づけた。この話を聞いて純子は、優貴の殺害を指示しているのだと思ったが、反発をするどころか、あっさりと「そうするしかないでしょうね」と承認した。その理由については、「松永に反論する言葉を持っていなかったからです。優貴くんを助ける方法ではなく、優貴くんの殺害を自分自身に納得させることにしか頭が働きませんでした」と法廷で打ち明けている。「両親も祖父母もこの世にいないですし、学校にも行かれませんし、食事も満足に食べられませんし、今こそないけど、のちのち通電が始まるのは明白だし……と考えていたら、生きていても可哀想だと思いました。そして、松永に迷惑をかけられないというのが、もっとも大きな理由でした。子供たちが将来、優貴くんから復讐を受けるかもしれない、という松永の話を真に受けて殺害を決意したのではありません」
P176,177:「これからどうするね?」「優貴とふたりでお父さんの実家に帰ります」「帰ったらいろいろ聞かれるけど、どうするね?」「何も言いません」「彩ちゃんは言わないかもしれないけど、優貴くんは大丈夫なの?優貴くんは、おじいちゃん、おばあちゃん、お母さん、お父さんが死んだことを何も知らないから、帰しても害はないという楽観的な見方もあるけど、知らないからこそ正直に答えてしまうと思うよ。優貴くんが何も言わないという責任を彩ちゃんは持てるの?」「何も言わせません」「彩ちゃんがそう言っても、もし優貴くんが何か言って、それをきっかけにして警察が動いたら、彩ちゃんも犯罪をおかしているんだから、警察に捕まってしまうよ。それでも彩ちゃんはいいの?」「……」「俺にとっても警察に捕まるという不利益が生じるんだよ。その責任を彩ちゃんは持てるの?」「……」「優貴くんだって、お父さんとお母さんがいないし、生きていてもつらいだけだし、お母さんになついていたんだから、お母さんのところに帰してあげたほうがいいんじゃないかな?」「……」「もし彩ちゃんがお父さんの実家に帰りたかったら、優貴くんを殺したほうがいいんじゃないかな?」「……」この会話を側で聞いていた純子は、法廷でこう語っている。「松永はひとつひとつ細かいことを聞いて、彩ちゃんに答えを求め、その答えにさらに質問をぶつけ、追い込んでいきました。『俺や彩ちゃん自身に不利益が生じる。その責任を持てるのか』という言葉が、駄目押しのように効きました。彩ちゃんは何も言わなかった、というより、言えなかったと思います。最後に優貴くんの殺害を決意して、『そうします』と答えました」
P183,184:「松永は彩ちゃんが自ら死を選ぶように誘導していると思うようになりました。通電は顔面がいちばん多く、思考能力を失わせる目的だったのではないかと思います。顔面への通電で私も判断力を失い、何も考えられなくなったことがあります。生きているのが嫌になり、生きていたいという意欲が削がれました。彩ちゃんをそういう状態にしてから、巧みな話術で『死にたい』と思わせているんではないかと思いました。彩ちゃんは祖父母や両親や弟を次々に殺害して解体していったのですから、絶望するには充分だったと思います」純子の疑念は的中した。食パンの枚数を減らし始めて数日後、彩との話し合いを終えて洗面所から出てきた松永が、純子に向かって唐突に、「彩ちゃんもそうすると言っているから」と告げた。純子が意味を理解しかねていると、松永は彩のほうを向き、「なあ、そうだろ?」と同意を求めた。彩は俯いてしばらく黙り込んだ後、視線を床に落としたまま小さく頷いた。それから、松永は彩を浴室に閉じ込め、純子に「彩も『死にたい』と言っている」と念を押した。純子が「殺すんですか?」と聞き返すと、「いや、まだわからん」と答えた。「彩ちゃんは本当に死にたくて、本心から『死にたい』と伝えたのだと思い込みました。私自身が『早く殺してくれないかな。死んだらどんなに楽だろう』と思っていましたから、彩ちゃんも同じだと思ったんです。死にたいと思うのは無理もないし、生きていてもつらいだけだし、彩ちゃんがそう言うのなら仕方ないと思い、殺すのは止めようとは言いませんでした」
P193:しかし松永から「剥げんのやったら剥いでやる。あと1分しかないぞ」と言われると、息を止めて歯を食いしばり、一気にペンチを持ち上げて剥がした。親指に激痛が走り、親指から腰にかけて寒気が走り、爪を剥がした痕から血が流れ出してきた。まわりが血だらけになったのを見て、恭子は初めて大声をあげて泣いた。しかし松永は、「治療しましょうか」と言う純子に「そのままでいい」と言い放ち、そのうえ、純子に命じて洗濯ひもで恭子の首を絞めさせた。このような虐待が、約二十日間もつづいた。そしてようやく、恭子は二回目の逃亡に成功し、一連の事件の発覚につながったのだ。もし恭子が二回目の逃亡に挑まなかったら、あるいはそれに失敗していたら、父親の清志や緒方家の人々のように、廃人同然になるまで虐待が続けられ、最終的には殺されて解体されていただろう。純子もまた、松永に言われた任務をこなしつづけたに違いない。恭子がこの世からいなくなった時点で、この未曾有の連続監禁殺人事件が完全犯罪になっていたであろうと考えると、恭子が逃亡に成功し、そのうえ公判廷で証言したことは、筆舌に尽くしがたいほどの重大な意味を帯びてくる
P198:ここまで純子と恭子の証言、検察の捜査情報、そして関係者への取材をもとに緒方一家事件を振り返ってきた。しかしこの事件には「松永バージョン」とも言うべき、まったく違う視点から語られたストーリーが存在する。松永は終始一貫、自分が緒方一家を支配していたという検察や純子の主張を、きっぱりと否定している。「食事・就寝・排泄などで制限を強いたことはありません。ランク付けもしていません。共同生活を円滑に進めるために最低限の規則は決めていましたが、それさえ守ってくれれば、緒方家の人間が自由に暮らすことを許容していました」「緒方家の人間に通電をしたことはありますが、しつけの意味で行いました。それを『秩序型通電』と言います。つまり、ルールを守ってもらうために通電するのであって、決して虐待行為ではありません。回数は少ないですし、大半は手足にですし、事前にかならず理由を説明して相手が納得してから、つまりインフォームドコンセントをしてから通電していました。それぞれの死亡前に私が集中的に通電していたという事実もまったくありません」というわけだ
P204,205:純子本人の話では、逃走未遂後の彼女は、まさに死に体であった。最下位にランク付けられ、自由にしゃべることさえも許されなかった。しかし松永は、その頃から純子が譽たちや松永に横暴な態度を取るようになり、それが一連の事件の伏線になったと主張した。「その頃、純子は、自分を厄介者扱いする譽さんたちに不満を募らせているようでした。『私が松永と別れたら、いちばん困るのはあんた達やろ。私が松永といっしょに暮らすのは、あんた達のためよ』 と傲慢なことを言ったり、何かにつけて意地悪をしたり、殴る蹴るの暴行を加えたりもしていました。(中略)」
P208:「精神病院に入れるという提案が出ましたが、純子と主也さんが『入院させたら、お父さんのことを医者や看護婦や見舞いに来た人に言うかもしれない』と強く反対しました。私は『静美さんも死体解体に関わっているから他言するはずがない』『たとえ話したとしても静美さんは精神に異常を来しているから誰も信用しない』と思いましたし、私自身は譽さんが死亡したときの通電はしていないわけですから、静美さんを入院させることを恐れてはいませんでした。しかし結局、純子と主也さんは最後まで『言うかもしれない。そしたら終わりだ』と反対を続けていました 」見事、自分の台詞を純子と主也のものにしてしまっている
P217:松永はこの供述で、純子と恭子の証言の相違部分を巧みに活かしている。優貴の首を絞めた実行役について、純子は「私と恭子ちゃん」、恭子は「彩ちゃんひとり」と言ったが、そのどちらもあったというストーリーを創作したのだ。そして自分が恭子に指示を出したのは、あくまでも「芝居」のときであり、死体の足を押さえさせたのは殺害の指示には当たらない、という結論まで導き出している。彩殺害についても、松永は、純子から突然、殺したことを告げられたと話した
P220:彼の話は、ときに妙に現実味を帯びて聞こえることもあった。しかし純子は、松永が些細な出来事を大袈裟にふくらませたり、時期が異なる出来事をつなぎ合わせたりして、自分に都合のよいストーリーをでっちあげることを得意にしていたと明言している。実際、松永の証言は、多くの矛盾をはらんでいたり、公判の過程で変遷していくことも珍しくなかった。
P233:彼は変幻自在に表情や態度を豹変させる。人好きのする柔和な表情を浮かべて礼儀正しく答弁しているかと思えば、急にふてぶてしい態度になって「お説教してるんですか!」「無礼ですよ!」などと検察官や純子の弁護人を非難したり、急にしおらしい態度になって「裁判長様、ぜひご理解ください」など哀願したりする。まるでカメレオンである。しかしどれも松永の本性とは言えまい



<2,まとめ,感想,考察>

<wikipedia「北九州監禁殺人事件」より>

この本は、2002年に発覚した北九州監禁殺人事件について取材をしたものです。この事件は報道規制がかけられたこともあり、残酷な内容です。なおこの本で使われる場所・人物名は一部仮名が使われているとのことです。上の画像で、この本で使われる名前と照らし合わせると、Xは松永、Yは純子、Bは清志、Aは恭子、Cは譽(たかしげ)、Dは静美、Eは理恵子、Fは主也、Gは彩、Hは優貴にあたります。X(松永)はB(清志)→C(譽)→D(静美)→E(理恵子)→F(主也)→H(彩)→G(優貴)の順に殺しています。生き残ったA(恭子)とY(純子)はその殺害にいくつか関わっています。殺害方法はいずれも家族内で互いに殺し合わせる、というあまりに悲しい事件です。松永は虐待と殺人の指示だけで、ほとんど自分の手を汚していません。
「~事件」を検索するとたいていは見てはいけないものに出会います。歴代の世界各地のほとんどの凶悪事件は倫理や常識を超えています。人間はここまで残酷になれるのか、人間はこんなことも考えるのか、と思わずにいられないだろう。今回の日本で起きた事件もそのひとつです。
この事件から、監禁=手足を縛ること、ではないことがわかる。縛らなくても逃げられない。自分の家族が人質になっているようなものです。当然、家族を守ろうとするだろう。しかし松永の敷いた縦一直線の序列によって、その家族達、例えば娘や親から罵倒され、電流を流され、密告され、逃げられる希望がなくなる。精神的に屈服してしまうだろう。この序列に一度入ると、もうそこから外れることはできないだろう。この事件は、洗脳、つまりマインドコントロールの集約系ではないか。
松永の手法には家族や知人から孤立させる、というものがあります。皆から絶交される=連絡先から自分の名を消される=たとえ自分から電話しても無視、あるいは非通知設定される=絶望する、こういう過程を監禁された人々は感じたのかもしれない。
監禁された人々は感覚やアイデンティティーを殺していました。生きる気持ちが、死にたい気持ちに勝るのだろう。DV(家庭内暴力)や虐待も同じです。命が叫んでいるのかもしれない。
松永はまれにみる天才話術師だろう。もしも登場人物が7人いて、証拠があり、かついくつかの事実があったとしたら、話を作る才能のある人は、それをつなげて壮大なストーリーを創造できるだろう。松永は実際にそれをやってのけています。裁判所で、純子と主也が主な主犯として、この連続殺人が起きる過程を説明し、しかも笑いを取り入れ、実際に傍聴席にウケていました。世の中の詐欺手法はこういうことかもしれない。布団を買う、という終点から、現在の押し売り相手の状況という始点につながるストーリーを逆算し、そしてそのストーリーが現在から再生され、結果、話がうまい人にのせられると思われる。
また、松永には、詐欺にかかる人、かからない人を見分ける鋭さがありました。監禁事件に巻き込まれた被害者やそれ以前の詐欺被害者らはいずれも松永に目をつけられた人です。弱みを握られ、それをネタに犯罪に走らせ、さらにそれを弱みとして握る・・・詐欺師をかわすには、今の状況、それは本当に弱みなのか、を再認識する必要があるだろう。
暴力、詐欺、これらを繰り返し、「日常」にすれば、いつしかそれが「世界」になるだろう。松永は監禁事件の前にそうしたことが「日常」となり、「世界」となっていたと思われる。
この本は松永だけでなく、この監禁事件の生き残りである純子、恭子に対しても書かれています。普通の女性だった純子、普通の少女だった恭子が松永の価値観に巻き込まれ、犯罪者の道へ進めさせられたことが分かる。
いずれにせよ、父が娘に虐待され、逆に父が娘を虐待をする、などというのは悲しすぎる。お互いに電流を流しあう、お互いに暴力をふるう。そこでの世界は歪んでいる、と思った。虐待の内容としては、考えられることはすべてやらされていました。こんな事件が確かにあったのだ、と実感できる。「~事件」とは、忘れてはいけない、残さなくてはいけない、という気持ちのあらわれかもしれない。
監禁され、通電され、外部とのつながりを断たれ、そして芽生える疑心暗鬼、最後に殺人を犯したという事実、現実が残る。マインドコントロールの恐さ、そして家族間でどうして殺すことになったのか、が記された本です

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| 4,消された一家―北九州・連続監禁殺人事件 |

[2013/01/29 01:00] | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑















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